人と地域のWEBマガジン ISHIKAWA DRAWER

Keigo KamideCreative director of Kutani pottery

上出惠悟上出長右衛門窯クリエイティブディレクター

多様性×可能性。広大無辺の九谷焼。

Person

#02

2016.05.18

丸若っていう男。

実家に帰って1年くらい経った時に、プーマの方と丸若っていう男が能美にやって来て。九谷の業界の人に呼ばれて行くと、僕と同じ世代の男の子がいて「自転車を九谷焼で作れないか」と。バイオメガ社がプーマとコラボレーションした自転車を発売する記念に、世界でプロモーションをしよう、さてプーマジャパンは何をするかということで。ほかの国はアーティストがペインティングしたりとか、グラフィティーって考えてたんですけど、日本版を任されたのが丸若って男で。彼はそんなので日本が勝てるわけがない、日本が勝てるのは工芸なんじゃないかみたいなことを九谷に来て思ったみたいで「ヤバい、すげぇ」となり、九谷焼でやったら世界で通用するかもしれないと考えた。ストーリーとしては、能登の震災があったので、九谷がこの自転車を売ったお金を輪島の漆器組合に寄付するというのがいいんじゃないかということに。

丸若さんと出会ってから1ヶ月で完成した自転車。サドル・ハンドル・キープレート・エンブレム・リフレクタが九谷焼でできています。

色違いで6台作ったんですけど、僕は若かったからやれたし、やったんですけど、今考えるとアホかっていう。お互い若かったんで、何かできるんじゃないかと思っちゃって。会ってから発表するまでがひと月しかなかったんで。初めて会った人と次の日から昼夜問わず電話。親とかは反対したし、これができなかったらどうするみたいなことになって、でもとにかく何かやりたいという思いだけでやったので。リスクは全然考えなかった。アホでしたね。

 

今までバナナ以外作ったことがなく、陶芸の勉強もしていない、完全にど素人が受けちゃって。こことかは職人が描いていて、この龍とかは僕が描いて。めっちゃ下手くそなんですけど。で、能美市が1台買ってくれました。今も資料館にあります。いっつもこのサドルがこの角度で置かれてて、行くたびに角度つけ過ぎですって言うんですけど。それが一番最初に取り組んだ制作物です。その後彼と一緒に髑髏を作って。それも最初はあまり九谷焼らしくない、カラー髑髏みたいなものを作ったんですけど、せっかくやるんだったら九谷焼らしいのを作ろうよって言って、花詰という文様を施したものを作って。これを森美術館の館長が買ってくださったり、展覧会に出たりして。いきなり美術館にデビューして。結構著名な方と一緒に並べてくださって。レオナルド・ダ・ヴィンチとか、円山応挙とか。スパイラルの展示も横がアンディ・ウォーホル、その横が河原温という、ずっと日付だけ描いてた方で。すごい恐縮しながらやっていました。ちなみに初めてバナナの作品を買ってくれたのはアンディ・ウォールさんっていうアメリカ人でした。

※丸若っていう男:丸若裕俊さん。株式会社丸若屋代表。プロダクトプロデューサー。
※バイオメガ社:デンマークの高級自転車ブランド。
※能登の震災:2007年に発生した能登半島地震。
※アンディ・ウォーホル:米国の画家。ポップアートの旗手。1928~87。
※河原温:かわら・おん。コンセプチュアルアートの第一人者として世界的に有名な美術家。1932?33?~2014。

好きです、笛吹。

笛吹は、うちが60年か70年くらい描いていたモチーフです。普通の笛吹が僕は好きで、それが好きで帰って来たような感じがあって。元々は400年以上前の絵柄で、祖父が笛吹が好きで、それを元にずっと描いていました。帰ってきた当時は、正直言ってほかのものの魅力はあまり分からなかったんですけど、笛吹だけはずっとかわいいなって思っていて。一番覚えているのは、21世紀美術館ができた前後にお友達が来て、一緒に金沢とか案内していて、途中で入ったお店で笛吹のお茶碗に入ったお茶が出されて「あ、うちの器だ」みたいな。そしたら隣の人も笛吹の話をしていて、「これ何吹いてるんだろう」って。そうやってただ出されたお茶碗の話を、僕らもそうだけど横の人たちもしているってすげぇって思って、そういう経験が今まであんまりなかったので、別になんてことないものだと思うんですけど、それで話題が広がるってすごくすてきなことだなと思って。自分はそういったこともあって笛吹が好きで。

 

2007年に初めて開いた個展のDMで使ったのが笛吹で。この当時はノーマルの笛吹しか作ってなくて、どうしたらこの笛吹をもっとみんなにすてきって思ってもらえるだろうということを考えてました。ちょうどトロンボーン奏者とサックス奏者から「結婚するのに引き出物が欲しい」と依頼をいただき、「笛吹の笛をお二人が吹く楽器に持たせ変えよう」って。それが一番最初に作った笛吹の変わったやつでした。それをきっかけに、じゃあ他の楽器も作り、オーケストラにしようと。ちょうどのだめカンタービレが流行ってた時で、流行りに乗れなかったですけど。で、その何年後かに今度は金沢のアマチュアスケーターから頼まれて、スケーターのモデルを作って。それが結構評判になって、欲しいという人が現れて。フレッシュニュースデリバリーでハイロックさんが紹介してから、注文がウェブショップに殺到して。ある日突然、クリスマス前くらいからバンバン注文が来て、何が起こったんだろうって思いました。そこらへんから結構いろんなお店とかメディアとかで取り上げられるようになって。でも、いまだにやっぱり普通の笛吹が好きですね。

※のだめカンタービレ:クラシック音楽をテーマとした漫画。ドラマ化もされました。

※フレッシュニュースデリバリー:メディアクリエイターのハイロックさんが厳選した最新ガジェットやデザインプロダクトを紹介するサイト。でも2015年の年末に終わってしまいました。

堂々と転写する。

KUTANI SEALは2009年ですね。流行ってるものばっか追っかけてるみたいですけど、当時NIKEiDが流行っていて、プチカスタムみたいな。そういうことが九谷焼でできないかという話を丸若さんとしていて、こっち側に鶴、反対側に亀が描いてあって、ここにはいろんなパターンのお客さんがチョイスした小紋が描いてあって、底には自分の名前が入って…みたいなのをやりたいよねと言っていて。僕らはお金がないので、アプリを作ろう、まずは本を作ろう、冊子でやろうみたいな感じでやってたんですけど、どうもうまくいかずに頓挫して。

 

その前に転写でやろうという話があったんですが、長右衛門窯はずっと手描きでやってきたので抵抗感があって。もともと、僕が帰ってきた当時は商品が売れないから、ウチも転写で安いものを作ろうっていう話があって。長右衛門窯ってとにかく高いって、どこに行っても言われていて。転写のものと比べるとうちは手で描いているしどうしても高くなっちゃうんですけど。茶碗祭りというお祭りでお客さんに「これ5客の値段だよね」って聞かれて「1客です」って言ったら「えっ」「たっかー」とか言われて。「たっかーとか言うなや」と思ったんですけど。他所のお店を見て安いと思っているのはそれは転写だからということはなかなか言えないし。聞かれれば「転写です」って言うかもしれないけど、それを隠して売っているような感じがして僕は好きになれなくて、正直言うと当時はネガティブな感情しかなかった。だからウチでも「転写をやろうか」って言ったのを必死で止めて。転写をやったら、手描きでやっている長右衛門窯の意味がなくなっちゃうから、っていうのをずっと言ってたんですけど、一方で、「自分たちでやればいくらでも表に出せる」というのに気づいて。

それで、KUTANI SEALと名付けて、見ただけでシールと分かる名前にして、その転写紙をお客さんに見せてやっちゃえ、まずはワークショップをやろうという話になった。でも納得できなくてここまで至るのに2年くらいかかってますけど…。絵付体験だと、絵が上手な人でも、いきなりまっさらなお皿を渡されて、じゃあ何か描いてと言われても何も描けないんですよ。ドラえもんとか描いちゃう。でも、シールだとペタペタ貼るだけで、絵が下手な人でもクオリティの高いものを作れるから、やってみると大人気で、「これはいけるかな」って。それで何度かワークショップをやるようになったというのが最初のきっかけで、いまだにアプリは作れずにいるんですけど。

 

オーダーメイドの九谷焼を作ろうというのをきっかけにして、その後に転写だということを明かそうと。そうすることで長右衛門窯との差別化もできるし、高い理由も理解してもらえて、九谷焼も転写でできているものがあることをうっすら感じてもらえる。最初は同業者の苦情や非難を恐れて、地元のメディアでKUTANI SEALを出さないようにとかこっそりしてたんですけど、ある時に九谷焼の業者の人から「転写の価値を高めてくれた」と言われて、そういう見方があるんだと。

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上出長右衛門窯〒923-1123 石川県能美市吉光町ホ650761-57-3344